生成AIアシスタントがオフィスソフトに深く組み込まれる中、その便利さの裏に潜む新たな脅威が初めて具体的な形で示された。セキュリティ研究者のホーコン・モーレイ氏は2026年7月28日、Microsoft Word用Copilotを標的とし、文書を介して自己増殖するマルウェア「AIワーム」の概念実証に成功したと発表した。同氏によれば、これは主流の商用生産性スイートにおける通常のワークフローを通じて拡散するAIワームの、公開された初の実証例だという。
このAIワームの攻撃は、悪意ある行為者が用意した文書を被害者と共有するだけで始まる。被害者のMicrosoft 365テナントへの直接アクセスすら不要だ。文書内には、白い背景に白い文字でプロンプトが隠されており、人間が目視でチェックしても異常を見抜くことは極めて困難になっている。被害者がこの文書をCopilotに読み込ませると、Copilotは隠された指示をユーザーの正規の要求と誤認し、作業中の文書を指示通りに改ざんする。それと同時に、元の文書に埋め込まれたAIワーム自身も、新しく作成・編集される文書へと気付かれないようにコピーされる。結果として、汚染された文書が別のCopilot支援ワークフローで使われるたびに、ワームは次々と拡散していく。
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モーレイ氏が設計したプロンプトは大きく二つの要素から構成されている。一つは、文書内の要約の意味をすり替えたり、数値を改ざんしたりするといった「文書への攻撃方法」に関する指示群。もう一つが、このプロンプト自体を新たな文書に密かに埋め込ませる「自己増殖のための指示」だ。一連の感染プロセスが進行すると、もはや最初の感染源を特定することすら困難になる可能性がある。攻撃者の手を離れた後も、AIワームは自律的に拡散を続ける。
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モーレイ氏は、今回の概念実証について、公表の半年前にあたる2026年3月6日に既にMicrosoftへ通知していた。その後、両者はAIワームの緩和策を探るため協力を続けたが、Microsoftが展開した複数の修正プログラムも、モーレイ氏がプロンプトを修正することで突破されてしまう結果となった。合意されていた144日間の調整期間が経過しても有効な対策が見いだせなかったため、同氏は「この広範な脆弱性クラスに対する確実な対策は今のところ存在しない」と判断し、公表に踏み切っている。
この問題の根源は、AIが役立つために処理せざるを得ないメールや文書、Webページといったデータそのものが、攻撃者によって制御されている可能性があるという構造的なジレンマにある。そして、AIツールが元となるデータに攻撃が含まれているかを判断しようとしても、その判断自体が攻撃者の仕込んだ指示によって汚染されている可能性を排除できない。モーレイ氏は「今日の大規模言語モデルを信頼できるワークフローに統合するシステムは、攻撃者が制御するコンテンツがモデルのコンテキストに入り込むと、ある程度の割合で侵害が発生することを想定しなければなりません」と警鐘を鳴らしている。
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根本的な解決策が存在しない現状で、ユーザーが取れる自衛策は極めて限られている。モーレイ氏は、外部から入手した文書を全て信頼できないものとして扱い、Copilotに入力する前にその内容と安全性を完全に確認する必要性を指摘する。さらに、Copilotで作成・編集された文書についても、やはり信頼を置きすぎず、出力結果の検証を徹底する姿勢が求められる。生成AIの業務統合が進むほどに、その利便性と引き換えに、データの入り口と出口の両方における人間の警戒が、最後の防御線として浮かび上がってくる。
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